本校はこの2004年4月、普通科高校2校を再編統合して総合学科高校として発足しました。再編の発表があった2校は、統合までの3年余りの準備期間にさまざまなことに取り組んできました。総合学科高校の必履修科目である「産業社会と人間」を「総合的学習の時間」の前倒しとして実施してきたのもその一例です。その中で、「職業観」や「勤労観」を養うために「職業調べ」「社会人講話」や「事業所訪問」などを実施してきました。
職業観や勤労観を体験的に学ばせるものとして、インターンシップがありますが、インターンシップを効果的に行うには1週間程度必要であるといわれています。1日だけの体験では、ただ緊張して疲れるだけで終わったり、通常のアルバイト体験とあまり変わらなかったという声も聞かれます。しかし、数日間インターンシップを実施するのは、学期途中に実施するのも夏休み中に実施するのもいろいろな問題や制約があって実施は困難な状況でした。しかもインターンシップの場合、その仕事内容は現業的なものや補助的な仕事内容になりがちでした。
社会にはさまざまな職業・仕事があり、そのことを生徒に学ばせるのも大切なことです。しかし、いわゆる普通の会社員が机に向かって仕事をすることをどのように理解させていくのか。金融、流通、建設、製造等さまざまな分野の仕事の中で、その会社の主たる仕事やプロジェクトと一人ひとりの社員が行っているデスクワークとはどうつながっているのかを高校生が実感として理解するにはすることは困難なことのように思えていました。
アルバイトを経験したことのある生徒に、実際の仕事はこんなにも真剣で厳しいけれど、しかし情熱をもって一生懸命取り組むに値するものであることを気づかせたい。そのことによって、普段の授業の大切さに思いを至らせることができれば、その体験は一過性のものではなく、生徒のキャリア形成に大きく寄与することができ意義あるものになると考えました。
ジョブシャドウを初めて知ったのは、総合学科高校の教員を対象にした研修会でのジュニア・アチーブメントの中許専任理事のお話からでした。一人の会社員に生徒一人が影のようについて、仕事ではなくその仕事をしている人を見るとことによって「職業観」や「働く」ということを肌身で感じさせるというスタイルに、新鮮なおどろきとこれこそ「仕事をする」ということはどういうことかを生徒に体験的に学ばせることができるプログラムであると直感しました。今回、日揮株式会社の協力を得てジュニア・アチーブメントの指導の下、ジョブシャドウを経験することができ、これまで懸案だったことがらの答えをすべて見いだすことができたと思っています。日揮の社員の方々をシャドウすることで、生徒達は実に得難い経験をすることができました。「生き生きと仕事に取り組む姿勢」「仕事への情熱」「一つ一つの仕事が集まって会社が成り立っている」「コミュニケーションをとって協力し合ってみんなでひとつのことを進めていく」「自分の思っていることを堂々と発言し、みんなの意見を反映すること」など、生徒たちはたくさんのことを大きな感動とともに心にしっかりと刻み込むことができました。ジョブシャドウが終了したとき、生徒達は目を輝かせて、「自分もシャドウした人のようになりたい」「日揮の社員の人たちはホントにカッコ良かった」「シャドウした人を自分の目標にしたい」「これからはもっと英語を勉強しようと思う」など興奮気味に語ってくれました。実際の肌身の体験の中からこのような思いをいだかせてくれた「ジョブシャドウの力」は本当にすばらしいと思いました。
また、「ジョブシャドウの力」はジュニア・アチーブメントの方々が行ってくれた事前指導によってその効果を一層増すことができたと思っています。どのような授業をすれば、会社の組織や業務内容を、また仕事をしていく上で必要な態度やコミュニケーション力を体験的に学ばせることができるのかといった点においても、実に学ぶべきことの多いプログラムでした。
「職業観」や「勤労観」をいかに生徒達に体験的に実感をもって学ばせていくかということは、今多くの学校が手探りで求めています。生徒自身が普段の授業で自分が学ぶことの意味を実感として感じながら学習することができれば、それこそが「生きる力」につながるのだと思います。
最後になりましたが、このような機会を与えてくださったジュニア・アチーブメントの皆様と、高校生に職業観を育成するという趣旨に賛同され快くお引き受けいただいた経営陣の皆様、自らをシャドウされることを引き受けてくださった日揮株式会社の皆様ならびに人事部スタッフの皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。